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初代介助犬ニッキーと2代目介助犬アルファとの、ささやかにしあわせな日々。
安全確認

 アルファは、盲導犬候補から介助犬に転身した犬。つまり盲導犬の適性がないと判断された犬。
 ニッキーは訓練の頃から、障害物を避けたり、私が気づかずに段差に進もうとすると前に割りこんで教えたり、自然にするようになった。だからその後、角や段差で止まるとか、スロープを探すことを教えた。
 アルにもそういうことを教えてみたけど、何というか…下手。盲導犬になれなかった訳だ、と納得した。ちなみに、麻薬探知犬になれなかったニッキーは、探し物がものすごく下手で、こちらも納得だった。

 そんなアル君も、私と数年一緒に行動しているうちにいつの間にか、上手に障害物を避け、角では一旦止まるようになった。
 もともと慎重(びびりともいう・笑)なアルファは、角で止まった時、左から近づいてくる自転車や車があれば、かなり遠くても動こうとしない。私が気づかずに進もうとしても、後ろに下がって教えてくれる。
 つい先日も、左から来る自転車の音が聴こえずに進んでいたけど、アルファに教えてもらって止まり、あわててバックして無事だった。私は左側が見えにくいのでとても助かる。

 ところが。

 今日の午後、近くの路地(排泄場所として許可を得ている場所のひとつ)でアルファにトイレをさせた。いつもどおり、私が小を流したり大を拾ったりしている間、アルファはシットステイ。
 そこに車が。細い路地なので、私は車椅子を道の端ぎりぎりに寄せた。

 でも、アルは車が来ているのに、道に座ったまま動かない。
「アル、カム!」急いで呼びよせ、リーシュをつかんで道の端に誘導。

 この車、ハイブリッドらしく、エンジン音をさせずにすーっと通り過ぎていった。アルファは不思議そうに車を見送った。

 止まっている車には喜んで乗り、動いている車からは慎重に身を守るアルファ。
 多分その違いは「音」だと思う。音のしないハイブリッドの車が、ゆるゆると減速して止まった時、アルファはそれを、止まった安全な車だと思って、座ったまま動かなかった。

 アルも経験とともに、いろんな状況判断が上手になった。それはとても頼もしいけど…ハイブリッド車や電気自動車が増えたら、なかなか大変そうだ。私とアル、ふたりとも「音」で判断しているから。
 まあこれも、私とアルファが一緒に経験を積むべき課題ってとこかな。

| 後輩アル | - | - |

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雷だ!

 かなり派手な雷。
 光ってから音がするまでに結構間があるので、近くに落ちることはなさそうだけど、停電になったらやだな、と、ちょっと憂鬱な気分になった。アルファは例によって、そんな私を鼻でつついて「気にしないで」と訴えた。

 そういえばニッキーは、雷が嫌いだった。
 留学中は独立記念日の花火も平気だったし、雷ももともと全然平気だったのに、7歳の時、雷が鳴る中で某駅の仮設通路の音がすごく反響する場所に(私と一緒だったけど)待たされて以来、雷が苦手になってしまった。音そのものより、周りの人、特に女性がきゃーきゃー大げさに騒ぐので、「これは怖いもの」と学習したらしい。

 ニッキー8歳の頃、友達の家に遊びに行った時も、雷が鳴った。ニッキーを撫でていた友達が「ニッキー、すごい震えてる」と言うので、ニッキーに触ってみたけど、全然震えていない。
「震えてないよ」
「ゆっきーが触ると震えが止まって、ゆっきーが手を離すとまた震えるんだよ」
 犬好きなその友達のことをニッキーは大好きだったけど、怖い雷が鳴っている時は、友達に撫でてもらっても震えが止まらず、私が触れると震えが止まった。絆を再確認できて、ちょっと嬉しかった。
 その後ニッキーは、10歳で後輩アルファに影響されて(?)雷嫌いを克服し、13歳ごろには耳が遠くなって雷も聴こえなくなったっけ。

 そんなことを思い出していたら、またアルファに鼻でつつかれた。

 大丈夫、思い出しても泣かないよ。嬉しくて素敵な思い出だからね。それに、ちゃんとバトンを受け取ったアルファがいてくれるからね。

| 犬たちの日々 | - | - |

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雨だ!

 ネガティブな私:散歩に出ようとしたのに、突然の土砂降り。
 ポジティブな私:突然の土砂降り、でもドアを出る前でよかった。
 アルファ:突然の土砂降り。それはともかく散歩だ。

 雨が降っている、という「事実」は同じでも、感じ方次第で各自の「現実」は変わるんだね。そして、私の気持ちがどうであれ、アルファの散歩好きは筋金入りだ。
 この後、散歩に行けなかった埋め合わせに、ホネとコングとうさぎちゃん、お気に入りのおもちゃをみっつ同時に使って、部屋の中で私と一緒にたっぷり遊んだ。満足してくれたかな?

| できごと | - | - |

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懐かしい動画

  去年偶然見つけた、『Partners in Independence』(IAADPが作ったビデオ)の動画。
 盲導犬を中心に取り上げたパート、同じく聴導犬のパートがあって、これは介助犬のパートということになる。

 去年の今ごろこの動画を見つけて、一瞬だけ映るニッキーの姿にびっくりして涙がどっと溢れ、PC画面に向かって何度も名前を呼んだのを覚えている。

 でも、1年経ってもう一度見たら、12年以上前の自分達に、

「右カーブの指示が遅い!」
「腕を動かさないで!」
「ニッキー、もっと右に寄って! 前に出て!」

 と、なぜか自分で駄目出ししてしまった。
 ちょうど、当時苦手だった右カーブで動きが合わなくなっている姿が、運悪く撮影されてしまったのだった。

 あの時、ホテルのふかふかカーペットのお陰で右カーブの問題がはっきりしたところだった。よその協会の知らないトレーナー達がアドバイスしてくれた。
 もちろんまだ訓練中だった私とニッキーもお互いに未熟だったんだけど、ハーネスを変え、私の指示のタイミングとか腕の使い方を変えたら、すいすい動けるようになった。それを見て、見守っていてくれたよその協会のトレーナーや先輩ユーザーたちも喜んでくれた。

 日本から犬連れでやってきた留学生、という珍しさもあって、協会の枠を超え、いろんな人が助けてくれた。決して仲のよくないふたつの協会の人たちが、一緒になって助けてくれたこともある。
 恵まれてたなぁ、幸せだなぁ、と思う。

 ふたりで試行錯誤のトレーニング、楽しかったね、ニッキー。
 去年は泣いてたけど、今年は楽しかったことを思い出して、笑ってるよ。

| ニッキーのこと | - | - |

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そっくり

  連休中だからいいや、と夜更かししていると、アルファが先に寝室に行ってしまった。
 そして、いつもならそろそろ寝るだろうという時間や、いい加減もう寝ないとまずいだろうという時間になると、ちゃんと呼びに来てくれる。

 鼻でつついたり、ひざにあごを載せたりして、ちょっと私の注意をひいて、寝室の方に向かって立ち、ちらっとこっちを振り返る。
「あーちゃん、分かったよ。すぐ行くからね」と言うと、寝室のドアのところから半分顔を出して、じっとこっちを観察。

「すぐ行く」という言葉は理解しているアルファ。
 私が「すぐ」行かないと、もちろんもう一度呼びにくる。それも、鼻プッシュの連打とか、前足パンチとか、頭突きとか、いろんなワザを次々に出して、さっきよりずっと強引に私を動かそうとする。

 ああ、そっくりだ。
 同じことをニッキーがずっとやっていた。

 アルファはニッキーが生きていた頃、一度もこれをやらなかったのに、ニッキーがいなくなったらちゃんと同じことをしている。それも、ニッキーとそっくりの動作や、そっくりのしつこさで。

 介助犬としての仕事だけじゃなく、こんな行動も、ちゃんと先輩犬から引き継ぎがあったのかも…なんてことをふと思った。

| 犬たちの日々 | - | - |

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習慣

  雨の土曜日。

 ちょっと用があったのでうちの母がやってきて、帰りがけに、ポケットからいらないレシートが落ちた。
「あーちゃん、ゲット、ごみ」
 拾って、ごみ箱に捨てなさい、と母が指示を出す。
 現役介助犬のアルは、基本、私以外の人の指示は無視するくらいでちょうどいいんだけど、うちの両親は時々アルの散歩をしてくれたり、シャンプーや爪切りをしてくれたりするから、そういう時に不安なく落ち着いて指示がきけるように、普段から時々指示を出してもらう。

 アルファは私の顔を確認してから、落ちたレシートをくわえてごみ箱へ。軽いレシートがうまく落ちず、ごみ箱の外に出てしまった。
 でも、私より甘いうちの母上は、レシートがごみ箱の外に落ちたままなのに、アルファを呼んでごほうびをあげてしまった。…あーあ。

 母はそのまま帰っていった。
 そして。

 アルファは、玄関まで母を見送り、戻ってきて、さっきのレシートがごみ箱の外に落ちているのを発見。
 私が何も言わないのに、拾ってごみ箱に入れた。
 グッド!

 アルは別に、さっきの母の指示を思い出したわけではなく、いつもの仕事で「ごみ箱の横の紙くずは、ごみ箱に入れ直す」と身についていたから、自分で判断したんだろう。

 いつまでも童顔(?)だけど、自分なりの仕事のコツや習慣が身についた、8歳。

 こんなちょっとしたところで、ベテランだなぁ、と思わされる。
 多分、今がいちばん介助犬として頼りになる時期だね。

| 後輩アル | - | - |

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仕事中に…

  いつもと違うタイプの仕事が入って、ちょっと忙しい今日。
 画像を確認しながら作業したいのに、御年10歳の我が家のパソコンは、処理速度が遅くて肝心なところで画像がコマ送りになったりするので、ひじょーに効率が悪い。思わず「あーいらいらするっ!」と呟いた。

 すると。
 よく寝ていると思ったアルファがハウスから立ち上がって、しっぽを軽く振りながら、私のひざにあごをのせた。

 これはアルファの「落ち着いて」のサイン。
 ニッキーが老いてから、ニッキーが転んだり吐いたりして、私がプチパニックを起こしそうになると、決まってアルファが「大丈夫」「落ち着いて」と私のひざにあごをのせた。電話で険悪な言い合いをしても、手を離せない仕事中にセールスがきても、アルファが「落ち着いて」のポーズ。
 繊細なアルくん、いらいら・ぴりぴり・かりかりした空気や、怒りや、険悪な雰囲気が嫌い。穏やかな安定した空気に戻すべく、彼なりに努力する。
 アルのそんなところが、私は大好きだけど…仕事中にこれをやられると、余計に仕事がはかどらなくなるので、ちょっと困る。

 ニッキーは、私が「悲しい」時には必ずそばに来てくれたけど、「怒ってる」時はそっとしておいてくれた。そして仕事中は近づかなかった。
 ニッキーがいた頃はアルファも私の仕事中に近づいてくることはなかったけど、多分それは、ニッキーがアルファを制していたのか、アルファがニッキーの真似をしていたのか、どちらかだと思う。

 こんな時、ニッキーがいなくなったことを、寂しく実感する。
 でも一方で、ニッキーとは違うアルファの個性もいとおしい。

 私より先に初代から2代目の補助犬にバトンタッチした友人が、「パートナーが代わると、新たな展開がある。犬の個性が違うだけじゃなく、人間も影響されていろんな変化があるから」と言っていた。
 足し算じゃなく化学変化のような、人と犬の組み合わせ。

 仕事を邪魔されるのが何より嫌いだった私も、最近は、アルファの「落ち着いて」を受け入れて、気分転換するようになった。
 仕事を中断して、コーヒー1杯。

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